紫陽花の咲くころに

読書や映画鑑賞の記録など、つらつらと。

EU(欧州連合)は官僚主導か

 昨日に引き続き、本日も英国(イギリス)国民投票に関して考えたいと思います。

 

 そもそも欧州統合は、ヨーロッパのエリート主導の統合と呼ばれてきました。

 

 二度にわたる世界大戦は、ヨーロッパのみならず、世界中に混乱と災厄をもたらしました。とりわけドイツとフランスの間に生じた亀裂は、根深いものでした。

 ドイツの拡大主義が二度の世界大戦をもたらした責任は避けることができず、ヨーロッパの中でドイツを管理し復興させることが重視されました。

 

 実は欧州統合の試みは、第二次世界大戦以前から存在しました。クーデンホーフ=カレルギー伯爵(1894‐1972)が1923年に出版した『パン・ヨーロッパ』はその走りと言えるのではないでしょうか。

フランス首相のブリアンは、パン・ヨーロッパ運動の栄誉総裁に推戴され、自身も国際連盟総会で「欧州連邦秩序構想」の演説を行いました。「欧州連邦」の実現もそう遠からぬ日のことと思われましたが、ブリアンのよき理解者であったドイツ外相シュトレーゼマンが死去。さらに世界大恐慌の影響から列強はブロック経済化を推し進め、ヒトラーの登場から第二次世界大戦への突入は不可避となり、欧州統合の道のりは閉ざされてしまいました。

 

 戦後、ヨーロッパの復興は緊急の課題でした。同時に、大戦を通じて超大国となったアメリカとソビエト連邦の陰に隠れてしまったヨーロッパにとって、国際社会における存在価値の低下から、抜け出す必要がありました。

 

 欧州統合は経済官僚出身のモネなど、フランスの技術官僚主導の下で行われました。またEUには選挙で選ぶことのできる欧州議会はありますが、EU法案の提出権がなく、EUの政策決定に果たせる役割は限られたものでした。代わりに、欧州委員会にはEU法案提出権があり、EUにおける政策決定に大きな影響力を持ってきました。これは、日本でいう内閣のみに法案提出権があることと同じと言えます。決定的な違いは、議院内閣制の下では、閣僚の大半が選挙で選ばれた国会議員ですが、欧州委員会の場合、各国政府の推薦を受けた人物が選ばれ、後に欧州議会の承認を受けることになっています。

 

EU加盟国の国民には、欧州議会議員の選挙権がありますから、必ずしも、全てにおいて官僚主義の連合というわけではありません。しかし民衆の間では反官僚・反エリート主義が広がっているのか、欧州懐疑派やナショナリスト、極右政党の伸長が著しく、英国の国民投票で動き出した熱はしばらく収まることはないでしょう。